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不倫(不貞行為)の慰謝料請求や離婚裁判において、最も重要なのが「決定的な証拠」です。
しかし、証拠をつかむためにパートナーのスマホを勝手に見たり、ボイスレコーダーを仕掛けたりすることは、プライバシーの侵害や不正アクセスにあたる可能性があります。
「違法に集めた証拠は、裁判では使えないのではないか?」
テレビドラマの影響でそう考える方も多いですが、実は日本の民事裁判(離婚・慰謝料など)においては、結論が刑事裁判とは異なります。
この記事では、どこまでの証拠なら裁判で使えるのか、その境界線とリスクについて解説します。

不倫を暴くつもりが、あなたが犯罪者になってどうするの? ……『勝てる証拠』と『身を滅ぼす証拠』の違い、教えてあげるわ。
刑事と民事では、証拠採用の「厳しさ」と「目的」が異なります。
つまり、刑事は**「手続きの正義」を、民事は「被害者の救済」**をより重視する違いがあります。
1. 結論:民事裁判では「違法な証拠」も原則として使える

刑事ドラマでは「違法に収集された証拠は無効」というシーンをよく見かけますが、これはあくまで刑事裁判の話です。
なぜ使えるのか?(比較衡量論)
裁判所は以下の2つのバランスを天秤にかけて判断します。
- 真実を発見し、被害者を救済する必要性(不倫された側の権利)
- 証拠集めの手段の違法性の程度(不倫した側のプライバシー)
日本の過去の判例では、「著しく反社会的な手段」でない限り、証拠としての価値(証拠能力)を認める傾向にあります。
2. どこからがNG?「著しく反社会的な手段」とは

「原則使える」とはいえ、何をしても許されるわけではありません。
裁判所が「さすがにこれは証拠として採用できない(排除する)」と判断するのは、以下のような犯罪行為や暴力を伴うケースです。
逆に言えば、「同居中の夫のスマホを盗み見た」「カバンの中にこっそりICレコーダーを入れた」程度であれば、プライバシー侵害と指摘されることはあっても、不倫の証拠としては有効(採用)とされるケースがほとんどです。
【表】証拠集めの手段と裁判での採用可否(OK・NGライン)
| 具体的な行為 | 証拠採用 | 違法性の判断(著しく反社会的か) | 理由・リスク |
| 暴力・脅迫 (殴る、監禁する、脅すなどして自白させる) | × NG (排除) | 著しく反社会的 | 公序良俗に反するため、証拠としての価値が否定される。刑事事件になる可能性大。 |
| 住居侵入 (別居中の配偶者の家に鍵を壊して入る) | × NG (排除) | 著しく反社会的 | プライバシー侵害の程度が極めて高い。住居侵入罪に問われる行為。 |
| スパイアプリ・ハッキング (遠隔操作アプリを無断で仕込む、専門技術でパスワード解析) | △(微妙) | 反社会性が高い | 不正指令電磁的記録供用罪など、重大な犯罪行為に該当する場合、排除される可能性が高まる。 |
| スマホの盗み見 (同居中に置いてあるスマホを見る、通知を見る) | ◯ OK (採用) | 反社会性は低い | プライバシー侵害はあるが、夫婦間の「真実を知る利益」が上回ると判断されやすい。 |
| LINE等の転送・撮影 (ロックが掛かっていない、または共有タブレット等で見る) | ◯ OK (採用) | 反社会性は低い | 証拠として採用されるケースがほとんど。ただし、相手からプライバシー侵害で損害賠償請求されるリスクは残る。 |
ポイントは「犯罪の重大さ」×「プライバシーの侵害度合い」
注意点:
「証拠として採用される(◯)」ことと、「その行為が合法である」ことは別です。
スマホを勝手に見たことに対し、相手から逆に「プライバシー侵害」で損害賠償(数万円〜数十万円程度)を請求されるリスクはゼロではないことを理解しておきましょう。
3. 注意!証拠として使えても「逆に訴えられる」リスクがある

たとえ裁判所が「そのLINEのスクショを不倫の証拠として認めます」と判断しても、それとは別に**「プライバシー侵害」で相手から訴えられ、損害賠償を請求される可能性**は残ります。
結果として、差し引きでプラスにはなりますが、泥沼化する恐れがあります。
「証拠として使えること」と「その行為が合法的であること」は別問題なのです。
【実例表】証拠獲得 vs 逆訴訟の収支シミュレーション
※金額はあくまで目安であり、個別の事情により変動します。
| ケース(証拠収集手段) | ①不倫裁判での扱い(証拠能力) | ②相手からの逆訴訟(法的リスク) | ③最終的な収支イメージ(獲得慰謝料 – 賠償金) |
| Case A:スマホ盗み見 夫のスマホを勝手に見て、LINEを撮影・転送した。 | ◯ 採用 決定的な証拠となる。 | △ リスク小〜中 「プライバシー権侵害」として訴えられる可能性あり。 | プラス 慰謝料:+200万円 賠償金:-10万円 計:+190万円 |
| Case B:GPS・盗聴器 夫の車や鞄に無断でGPSやICレコーダーを仕掛けた。 | ◯ 採用 ラブホテルの出入り等を証明。 | △ リスク中 「プライバシー侵害」で訴えられる可能性が高い。 | プラス 慰謝料:+200万円 賠償金:-30万円 計:+170万円 |
| Case C:アプリ無断導入 「遠隔操作アプリ」を勝手にインストールし監視した。 | △〜× 微妙 不正アクセス等の犯罪性が強く、排除されるリスクあり。 | × リスク大(犯罪) 「不正指令電磁的記録供用罪」などで刑事告訴される恐れも。 | 大幅減、またはマイナス 慰謝料:+200万円(※認められれば) 示談金:-50万円〜 + 前科(罰金刑)のリスク 計:金銭以上に失うものが大きい |
この表のポイント
- 金銭的には「プラス」になることが多いCase AやBのように、不倫の慰謝料(相場100〜300万円)は高額である一方、プライバシー侵害の賠償金(相場数万〜数十万円)は比較的低額です。
そのため、**「多少のリスクを冒してでも証拠をつかめば、差し引きでプラスになる」**のが現実です。 - 「泥沼化」の精神的コスト金銭面ではプラスでも、相手が逆上して「プライバシー侵害だ!」と訴え返してくることで、争いが長引きます。
- 刑事事件になるライン(Case C)は避けるアプリを勝手に入れる、パスワードをハッキングツールで突破するなどの行為は、民事の賠償だけでなく**「警察沙汰(刑事罰)」**になるリスクがあります。
ここを超えると、慰謝料どころの話ではなくなるため絶対にNGです。
「素人がやるとストーカー、探偵がやると正当業務」。この違いはどこにある?探偵業法が認める特権と、警察のような権限はないという現実。合法的に証拠を得るために、プロに依頼する最大の法的メリットを解説。【詳細は下の記事をご覧ください】
まとめ:リスクを避けるために
民事裁判では、違法に収集された証拠でも採用される確率は高いですが、行き過ぎた収集活動はあなた自身が法的責任を問われる諸刃の剣です。
ご自身での収集に限界を感じたら、プロに相談することをご検討ください。強引に収集すれば、新たなトラブル発生につながるおそれがあります。



