2018年弁護士登録(東京弁護士会)
・離婚事件を含む一般民事事件を専門とする法律事務所にて勤務
・一般の方々の法律リテラシーを向上させるため、法律実務を解説するメディアを多数運営。
・悪徳業者に騙されないための防衛術を指南するため、本サイトを運営。
パートナーの浮気を疑ったとき、インターネットで検索すると必ず目にするのが「証拠を押さえろ」という言葉です。
しかし、法的な意味での「不貞行為の証拠」とは、具体的に何を指すのでしょうか?
単に仲が良さそうな写真や、親密なメールだけでは不十分なこともあります。
本記事では、弁護士の視点から「不貞証拠」の定義、その法的な役割、そして裁判で認められる証拠の種類について詳しく解説します。

まず前提として、法律上の「不貞行為」とは何を指すのかを理解する必要があります。
法律用語としての不貞行為とは、「配偶者以外の異性と自由な意思に基づいて肉体関係(性交渉)を持つこと」**を指します。
つまり、二人きりで食事に行ったり、手を繋いだり、キスをしたりするだけでは、道徳的には裏切りであっても、法律上の「不貞行為」とは認められないケースが大半です。
したがって、「不貞証拠」とは、**「二人に肉体関係があったことを推認させる客観的な事実」**を示すものである必要があります。
この証拠は、慰謝料や離婚を請求する側が用意しなければなりません。
ここに非常に高いハードルがあることになります。
まずは、不貞行為と認定されるにはどのような事実が必要かを解説します。

なぜ、そこまで厳密な証拠が必要なのでしょうか。
不貞証拠には、大きく分けて3つの重要な役割があります。
不倫のトラブルで最も多いのが、相手が「誤解だ」「ただの相談相手だ」と言い逃れをすることです。
裁判や交渉の場では、「疑わしい」だけでは相手を罰することはできません。
相手が言い逃れできない客観的な証拠を提示することで、初めて相手に事実を認めさせ、責任を追及する土俵に乗せることができます。
| ケース | ①証拠がない時の「言い逃れ」 | ②突きつけるべき「客観的証拠」 | ③証拠提示後の「法的結果」 |
| ケース1 密会 | 「仕事の相談に乗っていただけ。 食事はしたけど、何もしていない」 | ラブホテルへの出入り写真・動画 (入室し、数時間後に退室する姿) | 【不貞認定〇】 密室での長時間滞在は、性行為があったと強く推認されるため、「相談」という反論は通用しなくなる。 |
| ケース2 出張・外泊 | 「出張先のビジネスホテルに一人で泊まった。 誰も部屋には呼んでいない」 | 不貞相手の自宅への宿泊記録 (夜に入り、翌朝一緒に出てくる写真) | 【不貞認定〇】 出張という嘘がバレるだけでなく、異性宅への宿泊は肉体関係の存在を決定づける強力な証拠となる。 |
| ケース3 ドライブ | 「気分転換に一人でドライブしていただけ。 助手席には誰も乗せていない」 | ドライブレコーダーの音声・映像 (「愛してる」「次はホテル行こう」等の会話) | 【不貞認定〇】 性行為そのものの映像でなくとも、肉体関係を前提とした会話記録があれば、不貞関係の証明として扱われる。 |
| ケース4 LINE発見 | 「冗談で書いただけ。 ゲームの話をしているだけ」 | 性行為の感想や次回の約束 (具体的な行為への言及があるメッセージ) | 【不貞認定〇】 継続的な肉体関係を示唆する内容であれば、単なる冗談とはみなされず、慰謝料請求の根拠となる。 |
証拠の「質」と「量」は、慰謝料の金額にも影響します。
不貞の期間、回数、頻度などを具体的に立証できれば、「悪質性が高い」として慰謝料の増額事由になる可能性があります。
逆に証拠が曖昧だと、低額な和解案しか引き出せないリスクがあります。
| 評価項目 | 証拠が「弱い」場合(リスク:減額・低額和解) | 証拠が「強い」場合(メリット:増額・高額和解) |
| ① 不貞の期間 | 【証拠:最近のLINEのみ】 「先月から始まったばかり」と相手が主張した場合、それを覆す証拠がないため、短期間の不貞として扱われ、減額されやすい。 | 【証拠:過去の手帳+写真】 数年前からのプレゼント履歴や日記と、現在の写真を照合し、長期間の裏切りを立証。精神的苦痛が大きいとして増額事由になる。 |
| ② 回数・頻度 | 【証拠:ホテル写真1回分】 「魔が差しただけの一回きり」と主張されると、単発の不貞とみなされ、慰謝料額が伸び悩むことが多い。 | 【証拠:複数回の調査報告書】 月に何度も密会している証拠や、宿泊旅行の証拠を提示。常習的で悪質と認定され、高額な請求が通りやすくなる。 |
| ③ 反省の態度 (悪質性) | 【証拠:なし・不十分】 決定打がないため、相手が「誤解だ」とシラを切り続ける。裁判が長引き、疲弊して**低い金額で妥協(和解)せざるを得なくなる。 | 【証拠:言い逃れ不可】 明白な証拠があるのに嘘をついていたことが露呈。「不誠実な対応」として裁判官の心証が悪化し、判決・和解交渉ともに有利に進む。 |
| ④ 不倫相手への 請求 | 【証拠:氏名・住所不明】 相手の特定ができず、配偶者にしか請求できない。配偶者が無資力の場合、一円も回収できないリスクがある。 | 【証拠:住所・勤務先特定】 探偵の調査で相手の身元を特定。配偶者だけでなく不倫相手にも請求**が可能になり、回収の確実性が増す。 |
慰謝料請求において、「浮気をしていた事実」だけでなく、その**「中身(期間や頻度)」**を証明できるかどうかが、獲得金額を大きく左右します。
「少しでも高い慰謝料を取りたい」「相手に相応の制裁を与えたい」と考えるならば、単発の証拠で満足せず、「悪質性」を証明できるだけの複数の不貞行為の存在を証明する証拠を積み上げることが重要です。
もしあなたが離婚を望み、相手が離婚を拒否している場合、裁判で離婚を認めてもらうには「婚姻関係を継続し難い重大な事由」の証明が必要です。
確実な不貞証拠は、これ決定づける最強のカードとなります。
| シーン別対応表 | ① 証拠がない場合(リスク:離婚できない・泥沼化) | ② 証拠(不貞の証明)がある場合(メリット:離婚成立・主導権) |
| 裁判での 離婚判断 | 【離婚が認められない】 「性格の不一致」だけでは、相手が拒否すれば即時の離婚判決は出にくい。「まだやり直せる」と判断され、請求が棄却されるリスクが高い。 | 【離婚が認められる】 不貞行為は法律(民法770条)で定められた明確な法定離婚事由。相手がどれだけ「別れたくない」と泣きついても、裁判官は離婚を命じる判決を下す。 |
| 相手の立場 (有責性) | 【対等な夫婦喧嘩】 どちらが悪いか曖昧なため、相手も強気で交渉してくる。「お前の家事が悪い」「お前が冷たい」などと、逆にこちらを責めてくることも。 | 【有責配偶者(悪いのは相手)】 証拠により、相手は**「婚姻関係を破綻させた責任のある者(有責配偶者)」**と認定される。有責配偶者からの文句や、身勝手な主張は基本的に通らなくなる。 |
| 解決までの 期間 | 【長期化(3年〜5年以上)】 離婚判決を得るために、実績作りとして長期間の別居が必要になるケースが多い。新しい人生へのスタートが大幅に遅れる。 | 【早期解決(最短ルート)】 別居期間の実績を待つことなく、不貞の事実をもって「婚姻関係は破綻している」とみなされるため、スピーディーに離婚判決を獲得できる。 |
| 離婚条件 **(親権・財産)** | 【妥協を強いられる】 相手に離婚届に判を押してもらうために、「慰謝料はいらない」「財産分与を譲る」など、こちらが損をする条件を飲まざるを得ない。 | 【有利に進められる】 「離婚に応じないなら、証拠を元に徹底的に裁判で争い、慰謝料も満額請求する」というカードを切れるため、相手が折れてこちらの条件を飲みやすくなる。 |
相手が離婚を拒否している場合、証拠がないまま裁判に突入するのは非常に危険です。「性格の不一致」程度の理由では、裁判所はなかなか離婚を認めてくれません。
その結果、**「愛情のない相手と、法的に夫婦であり続けなければならない」**という地獄のような期間が少なくとも3年は続くことになります。(別居期間が3年を超えてくると離婚を認めれくれやすくなります)
しかし、**「不貞の証拠」**さえあれば話は別です。
裁判所は「裏切った側(有責配偶者)」の言い分を守ろうとはしません。
証拠は、相手の「別れたくない」という理不尽な拒絶を断ち切り、あなたを自由にするための最強の法的武器(パスポート)なのです。

証拠には「これ一つで勝てる」という強力なものから、「組み合わせることで力を発揮する」ものまで様々です。証拠価値(証明力の強さ)で分類して解説します。
これがあれば、肉体関係の存在がほぼ確実視されるものです。
単体では「肉体関係」の証明として弱いため、複数を組み合わせる必要があります。
不貞行為の責任を追及するためには、「肉体関係があったこと」を裁判官という第三者が納得するレベルで証明しなければなりません。
決定的な写真が一枚あればベストですが、それが難しい場合でも、LINEの履歴、交通系ICカードの記録、手帳のメモなどを積み重ねることで、**「状況証拠」**として不貞を認定させることが可能なケースも多々あります。