「夫が他の女性と手をつないでいた」 「妻が男性と二人きりで映画に行っていた」
これらは道徳的には許されない「裏切り」ですが、法律上の「不貞行為」として慰謝料を請求できるかというと、答えは**「NO」である可能性が高い**です。
裁判や法律の世界には、明確な「ライン」が存在します。 本記事では、弁護士の視点から「不貞行為と認定されるために必要な事実」について、具体例を交えて解説します。
1. 原則:「肉体関係(性交渉)」の有無が全て
法律において、離婚原因や慰謝料請求の対象となる「不貞行為」とは、原則として以下の事実を指します。
配偶者以外の異性と、自由な意思に基づいて肉体関係(性交渉)を持つこと
つまり、プラトニックな恋愛感情があったり、キスやハグをしたりするだけでは、法律上の「不貞行為」とは認められないのが原則です。
なぜ「性交渉」が基準なのか
法律(民法)は「夫婦の貞操義務(性的誠実義務)」を守るためのものです。したがって、その核心である「性的な関係」があったかどうかが、不法行為成立の重要な判断基準となります。
2. 性行為を見ていなくても認定される?「推認」という考え方
ここで皆様が疑問に思うのは、**「性行為そのものの現場(ベッド写真など)なんて、撮れるわけがない」**という点でしょう。
安心してください。実際の裁判では、性行為そのものの証拠がなくても、前後の行動から**「社会通念上、性行為があったと推認(推定)できる事実」**があれば、不貞行為と認定されます。
不貞と認定される事実(推認されるケース)
- ラブホテルへの出入り
- 最も強力な事実です。「休憩」や「宿泊」で数時間滞在していれば、中で何をしていようと、裁判所は「性関係があった」と推認します。「ただ話をしていただけ」という言い訳は、まず通用しません。
- 相手の自宅への宿泊・長時間滞在
- 「泊まったけれど別の部屋で寝た」という反論は認められにくく、密室で長時間を過ごした事実が重視されます。
- 旅行(外泊)
- 二人きりで旅行に行き、同じ部屋に宿泊した場合も、同様に不貞とみなされます。
不貞と認定されにくい事実(グレーゾーン)
- 二人きりでの食事・デート
- 手をつなぐ、腕を組む
- 軽いキス
- 「好きだよ」等のメールのやり取り(性的描写なし)
これらは「婚姻関係を破綻させる行為」として別の問題になる可能性はありますが、「不貞行為(慰謝料の対象)」としては証拠不十分とされるケースが多いです。
3. 「類似行為」も不貞に含まれる場合がある
性器の結合(本番行為)がなかったとしても、それに準ずる行為があれば不貞と認定される場合があります。
- 口淫(オーラルセックス)などの性交類似行為
- 裸で抱き合う行為
これらも「夫婦の平穏を害する」として、不貞行為と同視され、慰謝料請求が認められる傾向にあります。
4. 証拠がなければ「事実」はなかったことになる
重要なのは、あなたが「夫は絶対に浮気している」と知っていても、それを証明する客観的な証拠(事実)がなければ、裁判所は不貞を認めてくれないということです。
「絶対にやっている」という確信を、「法的に勝てる事実」に変えるのが証拠です。
- LINEで「昨日はよかったね」と送っていた
- → 「食事のことだ」と言い逃れされる可能性があります(証拠価値:弱)。
- ラブホテルに3時間滞在して出てきた写真
- → 密室での性行為が強く推認されます(証拠価値:強)。
弁護士が「探偵を使ってでもしっかりした証拠を」とアドバイスするのは、この**「推認させる事実(ラブホテルの利用実績など)」**が、裁判で勝つために不可欠だからです。
まとめ:法的な「白黒」をつけるために
「どこからが浮気か?」の答えは、法律的には**「肉体関係、またはそれを強く疑わせる密室での滞在事実があるか」**です。
もし、パートナーの行動が「怪しいけれど、肉体関係の確証がない」という段階であれば、焦って問い詰めてはいけません。まずは、法的に不貞と認定される**「決定的な場面(ホテルや自宅への出入り)」**を押さえることが先決です。



コメント